皿鉢祭の見えない主役、料理人の方たちに焦点を当てた「土佐の料理人紹介」コーナーですが、今回は明治七年創業、高知を代表する老舗旅館「城西館」の和食調理副調理長の谷口和彦さんにお話しを伺ってきました。
―――― 谷口さんは中学校卒業後すぐにご実家のある高知県宿毛市から高知市へ出て、城西館へ入られたんですね。調理人になろうと早くから決めていたのですか?
いえ、特に早くからこの道に進むと決めていたわけではありません。ただ、母親が料理上手だったので、小さいころから漠然と自分もこんなふうになれたらという思いはありました。 中学1年生ぐらいの時は単純にお好み焼きが好きだからお好み焼き屋さんになりたい、などと思っていましたが、中学3年生で進路を考えたときに、やるなら和食調理人を目指そうと決めました。
―――― 15歳で親元を離れ厳しい世界に入ったわけですが、苦労が多かったのではないでしょうか。
最初の1か月はずっとお腹を壊していましたね。1人になるのも初めてですし、慣れない環境でのストレスでしょうね。朝から晩まで働いて、空いた時間には自分で練習を積んで。大変でしたが、多くのことを学びました。やはり辛いことが多かったですが、その分小さなことが嬉しかったです。色々な技術を一生懸命練習して、上手になったりすると嬉しさが倍増しました。
―――― 特にどんな技術が難しかったですか?
皿鉢料理の盛り付け方・握り・焼き物など、どれも最初は難しいです。1つの技術をずっと繰り返して繰り返して、慣れてきたら次のやり方を覚える。若いころは本当に基本的なことを繰り返してという感じです。1つのことにどれだけ集中してやっていけるかというところがあるので。
僕は和食の技術は本当に奥が深いと思っていて、今でも新しい技術がどんどん生まれていますし、ずっと勉強でずっと修業です。そこが面白くもあり、難しくもあるところです。
―――― 若いころの失敗談など、何かあれば教えてください。
昔の皿鉢祭での話になりますが、調理長が人参で七福神を作り自分はそれが展示中に乾燥しないようずっと霧吹きで水をやる係だったのですが、眠くてさぼってしまいまして・・・喫茶店でコーヒーを飲んでいるわずかな間に人参がしなびて・・・すごく怒られましたね(笑)
―――― そんなことがあったんですね(笑)皿鉢祭の展示作品は魚や野菜など、生モノもふんだんに使用しているので管理も大変ですね。色々な経験を経て、現在は城西館の副調理長としてご活躍されていますが、最近特に力を入れていることなどはありますか?
自分は副調理長として調理場の管理を任されていますが、中でも特に若手の育成に力を入れています。少子化の影響で、若い調理人がこれからもっと減っていくと思います。和食料理の技術だけではなく、楽しさや魅力を教えていくことも大事な仕事だと考えています。
―――― では、谷口さんの調理人としての「こだわり」はどのようなことでしょうか。
自分が一番大切にしていることは、「思いと思いやり」です。自分の思いや自分のやりたいこと、「この技術を見せたい」「この料理を作りたい」という、自分の信念というか。そればかりではだめで、相手も思いやって、「何が食べたいのか」「何を食べに来たのか」と、色々なことを考える必要があると思います。それで初めて意思が通じ合って、お互いが喜べる。そのバランスが難しいけれど、それをやらないと意味がないと思うので、すごく大切にしていて、常に考えています。
―――― 相手のことを慮る、それがお客様を「もてなす」ということになるんですね。お客様に料理を提供する以外にも、最近は小学校や老人ホーム、児童養護施設などへの訪問活動にも力をいれていると聞きました。それはどのような思いで活動されているのでしょうか?
今自分が所属している「高知県調理師連合会」では年に何回か施設を訪問し、皿鉢料理を寄贈したりカツオのたたきを実演したりしています。これは、喜んでもらいたいというのももちろんですが、特に子どもたちには食や郷土料理、地元でとれる野菜や魚に少しでも興味を持ってもらいたいという思いもあります。また、若手の料理人にも技術だけではなく、社会貢献を教えていくとても良い機会になっています。
―――― 最後に、谷口さんにとって皿鉢祭とは?
この業界に入った時からずっと皿鉢祭には関わってきていて、年に1回のイベントとして楽しみにしています。大変ではありますが(笑)ちょうど昨日、調理長やもう一人の副調理長と今年の皿鉢祭の大作について打合せをしたところです。これからもう少し詰めて考えていく予定ですので、楽しみにしていてください。
―――― 毎年、城西館の作品は彩りも美しく、多くの人が楽しみにしています。今年は久しぶりの大作ですので、本当に期待しています。ありがとうございました。
◇城西館ホームページ:http://www.jyoseikan.co.jp/